2017年8月21日月曜日

「平成22年度 #児童虐待 の防止等に関する意識調査」から

総務省は平成22年12月7日に「児童虐待の防止等に関する意識調査」を発表している。
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/38031.html

市町村やら学校やら様々な属性の対応職員を対象としたアンケート調査だ。もちろん児童相談所の担当職員である児童福祉司もその調査対象である。資料(PDF)は誰でもダウンロード可能なので、興味のある方は確認されたい。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000093404.pdf

この中で、私が注目した調査結果が2つある。

 オ 業務を実施する上で必要とされる経験年数等
(イ) 問5-2 担当者一人当たりの児童虐待事例の妥当な受持件数
児童福祉司に、担当者が常時受け持つ児童虐待事例の件数は、一人当たり何件程度が妥当だと思うか尋ねると、「10 件以上~20 件未満」が32.4%と最も多く、次いで「10 件未満」が30.2%、「20 件以上~30 件未満」が21.2%等となっている。


(クリックすると拡大します。)

(ウ) 問5-3 児童福祉司の妥当な配置数
 児童福祉司に、どの程度の配置数が妥当だと思うか尋ねると、「現状の2倍程度の児童福祉司を配置」が43.4%と最も多く、次いで「現状の1.5 倍程度の児童福祉司を配置」が29.5%、「現状の3倍程度の児童福祉司を配置」が20.6%等となっており、現状を上回る児童福祉司の配置が妥当とする回答が全体の93.5%となっている。

(クリックすると拡大します。)

以上である。

本ブログで以前に書いた通り、平成27年度の児相職員1人あたりの児童虐待対応件数だけでも43件である。 http://hairo-neko.blogspot.jp/2017/07/blog-post.html
(児相の仕事は児童虐待だけではない。) 個別の丁寧な対応が満足にできるとは言い難い数字である。

ところで、これを平成22年の意識調査のデータと照らし合わせてみると、非常によく符合する。
  1. 平成27年度のデータ「1人あたり43件」なら、担当職員を1.5倍に増やせば28.6件、2人に増やせば21.5件、3人に増やせば14.3件である。
  2. 平成22年の意識調査、「担当者一人当たりの児童虐待事例の妥当な受持件数」では、10件未満、10〜20件未満、20〜30件未満を合計すると83.8%、圧倒的多数。
  3. 同じく平成22年「児童福祉司の妥当な配置数」では、担当職員数を2倍、1.5倍、3倍に増やすべきと答えた人が合計93.5%、ほぼ全員。
平成22年度から逆算すると、平成22年当時の現状も1人40件以上と推定することができる。これらの数字は、児童の虐待担当職員(児童福祉司)の現状をよく表したものなのだろう。

わかりやすくまとめると、

「児童福祉司たちは虐待の担当を現状として40件前後を受持っているが、受持件数は10件ないし20件未満か、せいぜい30件未満が妥当と考えている。そのため彼らは児童福祉司を現状の1.5倍から3倍に増やした方が良いと考えている。」

ということになる。虐待当事者の子どもたちにとっても、職員にとっても、切実な問題であろう。

…しかし、ここまで考えて気がついた。平成22年度の意識調査と、平成27年度のデータが符合するというのはなぜか。平成22年度の児童福祉司の過酷な状況は、5年たっても改善されていないということになるのではないか。数字からは、増え続ける件数に対して職員も加配されていることも推定できる。しかし、それが追いついていない。さらに、これまた以前にも書いたことだが、2008年あたりで或るスクールカウンセラーに聞いた話では、茨城県の児相職員(児童福祉司)の児童虐待受持件数は、やはり40件前後だったそうだ。ということは、5年前どころか、10年前からも状況は変わっていないのかもしれない。

児童虐待防止法の施行から間も無く17年が経過する。児童虐待の相談件数は20年間で100倍となり、平成28年度は12万件を超えた。そして虐待で殺される子どもは平成28年度だけで84人。実に4日に1人の割合で子供が虐待死したことになる。

報告件数が増えたことに関しては成果である。児童虐待を4つに類型化して社会に認知を促したことには意味があった。これによって捕捉率は高まった。しかし、根本的な問題解決「児童保護」が満足に行われているかといえば、程遠い状況であると言わざるを得ない。標語的な啓発はこれからも必要であるが、それだけで不足ではないか。

児相はすでにパンク状態である。児童福祉司の増員は不可避である。それも当局が必要と考える人数を大幅に超えて配置する必要がある。理由は先述のとおりである。平成2年のデータと比較してゆうに約100倍を超える右肩上がりの相談件数、ここ5年10年と変わらぬ職員1人あたりの受持件数、そして児童福祉司の意識調査結果から、そう結論せざるを得ない。

虐待はこれからも増え続ける。確実である。格差、貧困はますます広まり、それととともに虐待の件数も増えていく。これまでと同じことをしていても、虐待は増え続けるし、虐待で殺される子供もなくなることはない。

児童虐待の現状を変えよう。児童虐待防止という標語的な啓発だけしていれば良い時期はもう過ぎたのだ。虐待されたことのない人、虐待されていても自分が被害者という意識を持てない人には、虐待そのものがわからない。その意味で、私たちは虐待被害者の主観的感情をもっと知るべきである。

新編 日本一醜い親への手紙」は、親への嘘偽りのない怒りや憎しみの気持ちを他の人にも読んでもらおうと、当事者たちが心を削って書き出した手紙の本だ。(自分の痛みを掘り起こす作業がどれほどの心的苦痛を伴うか、お分かりか。)いわば虐待当事者の主観的感情の社会的表明が満載の本だ。被害者学的視点から虐待を考えるにはうってつけである。特に児童虐待防止関係者は必読だと思う。児童虐待防止NPO、教育機関や自治体の皆さん、いかがだろうか。

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http://letters-to-parents.blogspot.jp/2017/02/blog-post_1.html

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